コンプライアンス、締役の責任

1.コンプライアンス

(1)コンプライアンスとは

「コンプライアンス」はしばしば「法令遵守」と訳されますが、最近では法律や規則といった法令を守るという狭い意味だけでなく、社会的規範や企業の社会的責任を守ることを含めて「コンプライアンス」という言葉が使われます。

最近では、検査データの改ざんや無資格従業員による検査など大手メーカーによる不正が相次いだほか、長時間労働による過労自殺が大きな話題となり、コンプライアンス違反に対する社会の目はますます厳しくなっています。

中小企業にとっても、他人事とはいえません。

商品の安全性の確保や不正の防止、粉飾決算などの不正会計、助成金の不正受給、セクハラやパワハラといった各種のハラスメント、長時間労働や賃金の未払い、個人情報の管理など、コンプライアンスの範囲は拡大しており、あらゆる企業が対策を求められています。

(2)コンプライアンス違反

コンプライアンス違反が社外に漏洩すれば、刑事処分や行政処分を受ける可能性があるだけならず、ニュースとして報道されたり、業界誌やウェブサイトなどで公表されれば、取引先や消費者からの信用を失うことになります。

また、インターネットとスマートフォンの普及により、消費者や従業員が直接口コミサイトに書き込みをするケースも増えています。

ひとたびインターネット上であらぬ噂が流れたり、ブラック企業のレッテルを貼られたりすれば、それを削除することは簡単ではありません。

最悪の場合には、一瞬にして企業の信頼が失墜し、事業を継続することができず倒産に追い込まれる可能性すらあります。

そのような事態を避けるために経営者ができることは、普段から社内のコンプライアンス体制を整え、それをきちんと機能させることです。

それができていれば、不正を未然に防ぐことができるのはもちろんのこと、万が一問題が起きてしまったときの損害を最小限度に抑えることができるのです。

(3)コンプライアンスによって企業価値を高める

コンプライアンス体制が整った企業は、社会一般から「優れた企業」との評価を受け、優秀な人材が集まり、長期的に発展することができます。

つまりコンプライアンスの順守は、企業が法令を遵守し社会的な責任を果たすべきであるという理念にとどまるものではなく、企業が永続的に発展をしていくための鍵となるものなのです。

(4)コンプライアンスが守られない理由

社内でコンプラアンスが順守されない原因はいくつか考えられます。

コンプライアンスに対する意識が薄い

コンプライアンスについて十分に理解し、教育できる人材がいない

コンプライアンスに関する方針やルールができていない

社内でのモニタリングができていない

(5)コンプライアンス体制の整備に弁護士ができること

弁護士にご依頼いただくことで、就業規則やガイドラインの整備といったコンプライアンス体制の整備を行う、企業の内部通報の窓口となる、コンプライアンス意識の向上のための社内研修や勉強会を行うなど、コンプライアンス違反を未然に防止するための方法をご提案することができます

また、万が一コンプライアンス違反が明るみになった場合には、しかるべき調査と処分を早急に行い、再発防止のための策を講じるとともに、会社の危機を乗り越えるためのアドバイスをいたします。

さらに、顧問契約を締結していただくことによって、顧問弁護士がコンプライアンス体制の構築を継続的にサポートし、不測の事態が発生したときには迅速かつ適切に対応することが可能です。

2.取締役の責任

会社法は改正前の商法 とは異なり、株式会社の取締役が負うべき責任を、原則として過失責任としました。

経営者は会社の経営について日々様々な判断を要求されますが、会社の経営として行った取引に失敗して会社に損害が発生した場合に、常に経営者が会社または株主から損害賠償を請求され、巨額の損害賠償責任を負わなければならなくなるというのは妥当ではありません。

そこで、経営判断の原則というものが認められています。

経営判断の原則とは、取締役が取引を行う前に、その取引によって被るリスクがどの程度のものであるかについて慎重に判断をして、取締役の裁量権の範囲内において決断した場合、たとえ結果が失敗に終わったとしても法的責任は問われない、という原則です。

多くの企業は、取締役会議事録に「第○号議案を審議し、一同、異議無く承認した。」という簡素な議事録を作成するに留め、議論の過程を議事録に記録していません。訴えを提起された後になって、「当時はリスクとメリットについて十分考えていました」などと主張しても、確実な証拠が無いため、裁判所に経営判断の原則を適用してもらうことが困難になってしまいます。

そのため、経営判断を行った当時に、しっかりと情報を収集し、分析し、検討を行っていたのであれば、それを証明できるように、きちんと書面化しておく必要があります。